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町並みが教えてくれる
日本人の暮らしの腕前
写真 ノンフィクション作家
鈴木 遥
さん
すずき・はるか ●1983年神奈川県生まれ。2005年京都文教大学文化人類学科卒業、07年奈良女子大学大学院人間文化研究科住環境学(建築学)専攻修士課程修了。01年から6年間で全都道府県120地域以上の古い町並みをまわり、京都、奈良を中心にさまざまな町並みの保存活動や建築物の記録活動に携わる。雑誌の編集やライター、ミニコミ誌などの発行も手がける。著書に『ミドリさんとカラクリ屋敷』(集英社/第八回開高健ノンフィクション賞次点)がある。

 屋根から電信柱の突き出た不思議な家に、鈴木さんが心を奪われたのは高校生の時だった。重厚な門、赤い太鼓橋の架かる広い庭、東北地方の民家を連想させる大きなお屋敷。もともと建築に興味のあった女の子は、やがて家主のおばあさんと言葉を交わすようになり、その謎めいた家に通い始めるようになる。

 しゃっきり元気な家主のおばあさんは当時85歳を超えていて、独特の哲学を持ち、「この家はすべて自分で設計して建てた」と言う。鈴木さんはおばあさんの人生にも強く興味を引かれ、ルーツを訪ねて北海道にまで調査に行ってしまう。その顛末(てんまつ)を克明に書き上げた著書がワクワクするほど面白い。

 「私が育った土地に、こんなにすごい家があり、生命力のあふれる女性がいた。屋敷に入らせてもらえるようになったら、秘密のカラクリ部屋もあるというのです(笑)。家もおばあさんも計り知れないほど奥が深くて、私は何年も通うことになりました」

 やんちゃな雰囲気のおばあさんをいきいきと描きながら、鈴木さんの筆はその女性を育てた日本の歴史や風土に言及していく。まだ20代。素晴らしい書き手が現れたと思う。

 大学と大学院では、町並みとそこに住む人の両方を研究したくて文化人類学と建築学を修めた。心引かれる古い町並みや建物には、そこに暮らす人々の営みが映し出されているそうだ。築年数が経っているから取り壊すという判断もあれば、文化財として保存したほうがいい場合もある。観光の資源にすることもできる。

 「それを決めるのはやっぱり住民の方々なんですよね。ただ、記録としてはまず残しておきたい。それが私に出来ることです。その時、暮らしてみないと分からないと思えば、どなたかのおうちでお世話になったり、町外れの空き家に住まわせてもらったり(笑)」

 綿密な調査力と合わせて、鈴木さんにはするりと相手の懐に入っていく魅力があるようだ。今日から一緒に暮らしても、きっと違和感が無い自然体。おいしいものがあれば町の人が「あの子呼んでおいで」と言いたくなる。こんな日本の女子がいいなあと思う。

(7月4日掲載、文:田中美絵・写真:南條良明)

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