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懐深い日本人の物語を
紡いでおきたい
写真 ドキュメンタリスト/image+物語制作所 主宰
瀬戸山 玄
さん
せとやま・ふかし ●1953年鹿児島県生まれ。早稲田大学卒業。WORKSHOP写真学校・荒木経惟教室に入塾後、78年に入社の映像制作会社を経てフリー。文筆と写真表現で評価を得る。2000年からドキュメンタリスト・記録家として文筆、写真、映像を駆使した活動を開始。著書に『東京ゴミ袋』『野菜の時代 -東京オーガニック伝』『里海に暮らす』他多数、映像では『村上富朗のサックバックチェア』(レミングハウス)他多数。連載中の『暮しの手帖』誌で5月から新企画も始まる。公式サイト http://www3.ocn.ne.jp/~mimimura

 美しい一脚の椅子が、名製作者の手によって完成していくDVDがある。裁断された木材が削られ、磨かれ、複雑なバランスを持って精緻(せいち)に仕上げられていく。ただ淡々と。ラジオの音、ジャズ、鳥の声をBGMにさまざまな工具の音が響く。その場で仕事を見つめている臨場感が、こちらの五感に刻まれていくようだ。瀬戸山さんの最新作である。だが、その椅子作り名人は昨年、62歳で世を去った。

 「素晴らしい作り手でした。声高に自分の仕事をアピールすることなど全くない。でも基準はどこまでも高い。日本人というのは、野菜を作る人でも、漁に出る人でもやはり同じように仕事に対して敬虔(けいけん)なものがありますよね。その姿をとにかく記録したいと思う。生き続けてきたこの丹精と技の段取りを伝えなくてはと思いますね」

 当たり前だとか、トピックスがないというだけで、意識からこぼれ落ちていく「暮らしに根差すやり繰りの日々」を、瀬戸山さんは「大切な雑味(ざつみ)」と呼んだ。まず、メディアを始め発信する側が、自分たちの媒体の都合で雑味を切り捨てていく。効率のために動く縦割りの社会は、年齢や性別を超えたゆるやかなつながりを分断してきたという。

 「日本人は創造的な苦しみが喜びです。それが地元の産業や職人を支えているメンタリティーでもあり、仕事の原動力だと思いますね。その気持ちを僕も僕なりにつないでいきたい」

 瀬戸山さんはこうも続けた。

 「誰もが本業を大切にしつつ、もう一つ自分の生き方のテーマを据えたらいい。社会や地域と領域横断的に交流し、自分なりの活動を始めてみる。人としての力が付きますよ」

 それを社会の「結び目を手作りする」と瀬戸山さんは表現した。ビジネス社会だけを縦に走るのではない。手をつなぐ相手がいる生き方。「いま若い人たちにその息吹を感じる」と、優しい顔がほころんだ。世代をまたいで物語はつながっていきそうだ。

 (4月16日掲載、文:田中美絵・写真:南條良明)

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