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新春スペシャル
経験を増やし人のために使おう。
生井さんは言う、
プロのセンサーで次の水脈を探せると。
写真
(株)阪急交通社 代表取締役社長 生井 一郎 さん

あなたの好奇心を仕事の糧に

頬をたたき気合を入れた海外添乗の日々

 学生時代から、仲間と一緒に旅に出ることが好きでした。酒を酌み交わしながら馬鹿話や時代の話などをする。それだけのことですが、日常を離れる楽しさは存分に味わったと思います。

 私は新卒で当社の就職試験を受けましたが、受験番号が130番ぐらいで、後ろから1番目か2番目。あまりにも人数が多く、当然待ち時間も長くなっていきましたから、これは諦めたほうがいいのかと思いましたよ。でもなぜか踏みとどまった。理由は分からないのですが、何かに引っ張られたのでしょう。合格者は20人ほどで入社後に配属部署の希望を書かされました。まだ仕事に本気になれない私は、希望先を「管理部門」としたのです。当時の役員に言われました。「海外旅行営業を希望しないのは珍しいよ」と。学生気分が抜けない私は、「具体的な仕事が思い浮かびません」と答え、役員はあぜんとしていました(笑)。

 それなのに、希望者が多かった海外旅行部に配属になった。不思議ですね。1年ほどで、先輩と一緒にサブの添乗員として海外へ同行するようになりました。当時、ヨーロッパへは南回りで行くと34時間くらいで、北からでも17時間半ほど。お客様の質問に答えたりしながら、飛行機の最後部座席で過ごしますが、空港に着いたら頬を平手でパンッパンッとたたいて自分で気合を入れ、真剣勝負の添乗を始めたものです。

 私は、お客様と添乗員の間に垣根を作りたくありません。今、90%のお客様が満足してくだされば成功だとよく言うのですが、私たちの時代は、日本の空港を出てまた帰ってくるまで、一人残らず100%の方にすごく良かったと喜んでいただくよう、神経を張り詰めて努力をしました。今でもプライベートな海外旅行でうちのツアーに出合うと、添乗員は私を知らないのにあれこれ指示を飛ばしてしまう(笑)。でも仕事は100%を目指すものだと思うのです。

広い見聞も深い掘り下げも必要だ

 仕事は現場で学ぶ。どの職種でもこれは鉄則です。旅行業では、添乗員が直接お客様と国内外へ出かけますから、そこが現場であることはもちろんですが、オフィス勤務でも同じです。気持ちは常に、旅というものにアンテナを張り巡らせて現場感を共有していて欲しい。旅に出る機会があるなら、公私共に逃さないで、なるべく多くの体験をしてくることです。

 事前にガイドブックを読み込んだりせず、まず心を裸にして出かけ、自分自身が何を感じるか味わってくる。そして戻ってからゆっくりと知識を整理すれば、きっちり覚えることができます。もちろん添乗員は、プロとしてお客様以上の知識を持っていなくてはなりませんが、それでも「感じる余白」を残して見聞を広めることが大切なのですね。それが旅をクリエーションする感性にもつながっていきます。

 私は自分が興味のあることなら徹底して追うことにしています。旅行も一つのテーマを見つけたら、例えばフェルメールの絵ならオランダからロンドンまで見て歩く。天才画家カラヴァッジオを追うなら、ローマからマルタ、シチリアなど全てに足を運ぶ。プライベートな時間を使ってどこまででも見に行きました。音楽や食事も、テーマに沿ってセンサーを働かせて体験するのです。やがて、ある一定のお客様は、自分と同じ興味をお持ちになるに違いないと、だんだん企画が立ち上がってくる。

 つまり自分の興味を深く掘り下げていけば、共通の興味を持ったお客様の水脈にたどり着くのです。それが同時代性のある現代的なテーマでもいい。お客様を驚かせてあげたいと思ったら、それはもうワクワクしてきますよ(笑)。どんなに小さなことでも好奇心を持って関連することを集めていけば、仕事の厚みとなってくる。企画の「公私混同」は新しいパワーだと思います。

世界は驚きに満ちている

 この2年あまり、私は動物を追いかけています。一昨年はアフリカでサファリへ出かけましたが、動かない建築や文化遺産と違って、予定通りにはいかないし、出会うまでに時間がかかる。相手は生き物であることがまず面白いんですね。私は4時間も5時間もかけて、ある飛行場からキャンプに入ったのですが、他の参加者はスイっとヘリコプターでやってくる。滞在日数も違うのですね。私は2泊3日でしたが、彼らは4日、5日とゆっくり時間をかけて動物を追うのです。出される食事をおいしい、おいしいと言いながら、動物に会えない時間も味わっている。普段はかなり忙しい彼らだと思うのですが、私は新たな旅の楽しみ方を感じます。

 サファリでは、「ビッグファイブ」と呼ばれる特に人気の高い動物、ライオン、ヒョウ、ゾウ、バファロー、サイを長い時間をかけて追いながらも、会えない動物がいるわけですが、もう最後の最後まで、辺りは真っ暗になっても諦めないでひと目でも見ようと頑張るわけですね。私は4WD車に乗せてもらってまだ見ぬサイを追い、最後は暗闇で岩にぶつかった(笑)。それはもう驚きましたが、でもその先にサイを見ることができました。そしてやはり日常では知ることのできない扉が開いた気がするのです。

 日本と違って外国では思いがけないことも起きます。お客様をご案内する私たちにとっては、努力することも多い。それでも私は、動いているこの世界の中にお客様を連れて行きたい。旅をすることは、紆余(うよ)曲折のある人生そのものだと思うからです。あなたの仕事はお客様の人生に何を贈れるのか。そんな視点を持って、自分の仕事を見つめて欲しいと願っています。(談)

生井 一郎
なまい・いちろう ●1947年生まれ。71年慶応義塾大学文学部卒業後、阪急交通社に入社。94年から東日本旅客営業本部新宿支店長、同三田支店長などを経て、99年西日本主催旅行営業部長としてメディア販売の責任者となる。2000年取締役に就任。06年代表取締役専務執行役員、08年同社副社長、10年から現職。
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