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「得之弦外」。大切なことは弦の外に潜んでいる
二胡奏者
チェン・ミン
さん
チェン・ミン ●中国・蘇州生まれ、上海育ち。幼い頃より音楽教育家の父から二胡を習い、上海戯曲学校で二胡専攻。卒業後に上海越劇オーケストラのメーン二胡奏者として活躍。1991年来日、97年共立女子大学を卒業後、本格的に演奏活動を始める。2001年アルバム「I wish−我願」で脚光を浴び、中国音楽、二胡ブームの火付け役となる。テレビ番組のテーマ曲や映画音楽への参加、他分野とのコラボレーション多数。6月28日(木)紀尾井ホールにて「チェン・ミンLive2007 祈り〜two as one〜」開催予定。問い合わせ先:キョードー東京(電話 03-3498-9999)

 草原をわたる風のような。切なさを秘めた人の声のような。チェン・ミンさんが奏でる二胡(にこ)の音色は、その最初の一瞬から聴く人の心をとらえてしまう。わずか2本の弦なのに驚きである。

 「私の心と体、考えていることや感じていることのすべてが演奏にあふれてくるんです。もう離れられない、生涯弾き続けたいと思うのですが、ある日ふと、今日は距離を置きたいなと思ったり。まるでもう一人の自分という人間が、私のそばで生きているような生命感があります」

 恵まれた音楽環境に生まれ育つ。音楽教育家の父を持ち、二胡の英才教育を受けて、オーケストラのメーン奏者に成長した。女優の母譲りの美しい容姿、約束された音楽家としての未来はゆるぎなかった。

 「それなのに、何だか満ち足りなかった。自分の将来が単純に見えてしまって、このままここで二胡を演奏し続けて終わるのかと」

 そこで、以前から興味を持っていた日本で、新しい生活を始めてみようと思い至る。父親は反対することなく、こう告げたそうだ。「ああ、行っておいでって(笑い)。大切なことは弦の外にあるんだよ。二胡の演奏に戻る日が来るかもしれないし、このままやめてしまうかもしれないけれど、君の人生だから、いいんじゃないの、と」

 日本語も話せないまま、お金もなく来日。4畳半のアパートに暮らし、アルバイトをかけもちして、2年間で学費をため日本文化を学ぶべく、大学入学を果たす。「すごく苦しい2年間で、ただの一度も二胡に触れることはなかった。孤独で貧しかったし、心も精いっぱいでしたね」

 大学入学後、二胡を奏でてみるが弾けない。弓が逃げていってしまったと、チェン・ミンさんは表現する。「二胡をやめるの、と自分に問いました。でも悔しい気もする。何とか練習して弾けるようになってくると、驚いたことに二胡が以前とまったく変化しているのです。私が変わったから音色が違う。それから夢中になりました」

 技術ではない。音楽は人の深さで奏でるもの。父親の言った「弦の外」での成長。それをつかんで開花したチェン・ミンさんがまぶしい。

(6月12日掲載、文:田中美絵・写真:南條良明)

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