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見える物を通して
日常深くにある美に届きたい
写真 コミュニケーションデザイン研究所所長/
デザイナー/デザインディレクター
平野 敬子
さん
ひらの・けいこ ●1959年兵庫県生まれ。97年HIRANO STUDIO設立。2005年工藤青石と共にコミュニケーションデザイン研究所設立。東京国立近代美術館のシンボルマーク、資生堂「qiora(キオラ)」の米国導入におけるブランド・アート・ディレクション、NTTドコモの携帯電話「F702iD 所作」のプロダクト、ブランドデザイン他多数を手がける。「時代のアイコン」展、「デザインの理念と実践」展、「デザインの起点と終点と起点」展などを開催。毎日デザイン賞、東京ADC賞、ニューヨークフェスティバル金賞など受賞多数。公式ホームページ http://www.cdlab.jp

 ざわざわとした外の世界にさらされることなく、静かでほの暗く、広々とした一室。主である平野さんその人を守っているかのような仕事空間だ。数々のブランドデザインや、携帯電話、化粧品などのプロダクツを手がける屈指のデザイナーだが、一人のアシスタントさえ使うことなく、すべてのプロセスをていねいに自身で手がけている。

 「人の目に見える物を作る、人が使う物を作る工程は、実はとても緻密(ちみつ)な作業なのですね。だから私はその長いプロセス一つひとつに愛を込める。『気』が抜けると目指しているものにたどり着けないからです」

 祖父が丹精する菊の花を日がな一日飽きずに眺めているような、内省的な子だったという。やがて絵画の世界へ足を踏み入れるが、自分は絵の描き手ではないと気づく。それは自分の指が一流の動きをしないと悟る「ピアニストの判断」と同じだったそうだ。だが、人々の生活に発見をもたらすようなデザインの視点にたどり着く。

 「以前『所作』と名づけた携帯電話を2年がかりで作りましたが、この携帯電話を通して和の美しさや、日本人が心に奥深く秘めている感覚を呼び覚ましたかった。例えば着信音に水の流れる音などを用いたのも、周囲にまで安らいだ空気を届けたいと考えたからです」

 まだ誰も作ってはいないけれど、きっと人が求めている物。そのデザインを探し当てることは、長い思索の旅のように見える。そして、その答えの一つに「和」の世界があるのだという。

 かつて平野さんが日本のデザイン、建築の第一人者たちに物作りの「本質」を求めて取材を重ねた映像がある。その中で、建築家・菊竹清訓氏が、「日本の美は『詠(よ)み人知らず』で受け継がれている」と語っている。この、名もない「詠み人知らず」が、ふと平野さんの目指すプロフェッショナル像に重なった。静かに、じっくり、日常深くに宿る美を求める人として。

(3月9日掲載、文:田中美絵・写真:南條良明)

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