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「職人でいる覚悟」
 山下達郎が語る仕事-2
写真
「匿名でいい仕事」が基本

曲作りは苦しいが
妥協だけはしない

 何のために音楽をやるのか、表現者としてどんな音楽活動をしていくのか。僕はそうした自分に対する問いかけを常にしてきました。功名のためとか、金もうけの手段として音楽を選んだわけではないがゆえに、自分の表現の必然性を自分なりに考えて生きてきたのです。

 新人バンドなどがよく説得される言葉が「今だけ、ちょっと妥協しろよ」「売れたら好きなことができるから」。でもそれはうそです。自分の信じることを貫いてブレークスルーしなかったら、そこから先も絶対にやりたいことはできない。やりたくないことをやらされて売れたって意味がない。そういった音楽的信念、矜持(きょうじ)を保つ強さがないとプロミュージシャンは長くやっていけないのです。

 自分の表現手段である音楽活動以外は、あれもやらない、これもやらないと、やらない尽くしのネガティブプロモーションが、結果的に僕には一番合っていたのだと思います。テレビCMに出演して「RIDE ON TIME」が大ヒットしてブレークした時、少し顔を覚えられただけで、新幹線の駅売店の売り子さんが、「ああ、あなた、昨日テレビ出てた、出てた」と、こっちがどこの誰だろうと関係なく、ただの有名人として扱う(笑)。僕はそういうのが苦手だったので、以後は大きなメディア露出をなるべく避けて今に至っています。

 夫婦でCMに出ないかと誘われたことがあります。2日間の拘束で相当なギャラでした。でもそんなことをしたら、自分の曲が書けなくなります。曲を書くのは大げさに言えば命を削る作業なので、できなくて苦しんでる時に頭に浮かぶでしょう、またCMに出ようかなって(笑)。曲を書く以外に生きる道はないところに、いつも自身を追い込んでいなければと思うのです。

黙って真面目に
働く人こそ仕事人だ

 僕はアーティストという言葉が好きではありません。知識人とか文化人といった、上から目線の「私は君たちとは違う」と言わんばかりの呼称も全く受け入れられない。名が知られていることに何の意味があるのでしょうか。市井の黙々と真面目に働いている人間が一番偉い。それが僕の信念です。

 昔からハワイやアジアなどの海外公演の誘いがたくさんありましたが、全く興味がありません。そんな時間があったら、日本のどこかで真面目に働いているファンのために演奏し、歌いたい。それが僕に課せられた責務だと思っています。

 指物師が尺も何も使わずに目分量で切って、ビシッと寸分違わず枠をはめるとか、グラインダーの研磨の火花でアンチモンが何%入っているか分かるとか、本物の職人技を見ると心底感動します。きっとそういう職人たちは有名になることにはこだわりがないでしょう。人の役に立つ技術を自分の能力の限り追い求めているだけ。それが仕事をする人間の本来の姿だと思います。

 僕も姿勢は職人です。作った曲が誰かに喜んでもらえればそれでいい。この社会は職種に関わらず、懸命な仕事人の働きによって回っていると思います。(談)

やました・たつろう ●シンガー・ソングライター/音楽プロデューサー。1953年生まれ。75年バンド「シュガー・ベイブ」としてシングル「DOWN TOWN」、アルバム「SONGS」でデビュー。76年アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビュー。80年発表の「RIDE ON TIME」が大ヒットとなりブレークする。アルバム「MELODIES」(83年)に収められた「クリスマス・イブ」が89年にオリコンチャートで1位を記録。20年以上にわたってチャートイン。日本で屈指のクリスマス・スタンダード・ナンバーとなる。84年以降、竹内まりや全作品のアレンジ及びプロデュースを手がけ、またCMタイアップ楽曲の制作や、他アーティストへの楽曲提供など幅広い活動を続けている。