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「キャリアの扉にドアノブはない」
 内田 樹が語る仕事-1
写真
「適職」は幻想である

「君、頼むよ」と言われ
仕事は始まっていく

 自分の適性に合った仕事に就くべきだと当たり前のように言われていますが、適職などというものがほんとうにあるのでしょうか。僕は懐疑的です。それは就職情報企業が作り出した概念だと僕は思います。「キャリア教育」の名のもとに、大学2年生から就活指導が始まり、その最初に適性検査を受けさせられます。これがいったい何の役に立つのか、僕には全く分かりません。

 大学で教えている頃に、ゼミの学生が「適性検査の結果が出たのですが」と困惑してやってきたことがありました。「あなたの適職は1位キャビンアテンダント、2位犬のトリマーと出たんですけど、私は一体何になればいいのでしょう」と(笑)。就職情報産業は学生たちを、自分には「これしかない」という唯一無二の適職があるのだが、情報が足りないせいで、それに出会えずにいるという不安のうちに置きます。それに乗じられる学生たちが僕は気の毒でなりません。

 仕事というのは自分で選ぶものではなく、仕事の方から呼ばれるものだと僕は考えています。「天職」のことを英語では「コーリング」とか「ヴォケーション」と言いますが、どちらも原義は「呼ばれること」です。僕たちは、自分にどんな適性や潜在能力があるかを知らない。でも、「この仕事をやってください」と頼まれることがある。あなたが頼まれた仕事があなたを呼んでいる仕事なのだ、そういうふうに考えるように学生には教えてきました。

 仕事の能力については自己評価よりも外部評価の方がだいたい正確です。頼まれたということは外部から「できる」と判断されたということであり、その判断の方が自己評価よりも当てになる。

 「キャリアのドアにはドアノブがついていない」というのが僕の持論です。キャリアのドアは自分で開けるものではありません。向こうから開くのを待つものです。そして、ドアが開いたら、ためらわずそこに踏み込む。

消費者マインドを
就職に持ち込まない

 労働市場における「適職」という語の意味は、意地悪く言えば、「自分が持っている能力や素質に対していちばん高い値段をつけてくれる職業」のことです。取りあえず今はそういう意味で使われている。最も少ない努力で、最も高い報酬を得られる職種を求めるのは、消費者にとっては自明のことです。いちばん安い代価でいちばん質のよい商品を手に入れるのが賢い消費者ですから。その消費者マインドが求職活動にも侵入している。

 でも、「費用対効果のよい仕事がいちばんいい仕事だ」というロジックを推し進めれば、ディスプレーの前でキーボードをたたくだけで何億円も稼ぐような仕事がいちばん「賢い」仕事だということになります。でも、「仕事をする」というのは「手持ちの貨幣で商品を買う」ことではありません。それはむしろ、自分がいったい何を持っているのかを発見するプロセスなのです。(談)

うちだ・たつる ●著作家、武道家、神戸女学院大学名誉教授。1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程を中退後、同大学人文学部助手、神戸女学院大学文学部総合文化学科教授などを歴任。専門はフランス現代思想、映画論、武道論。『ためらいの倫理学 〜戦争・性・物語〜』『私家版・ユダヤ文化論』『街場の教育論』『街場のメディア論』『下流志向 〜学ばない子どもたち 働かない若者たち〜』など著書多数。公式サイト http://blog.tatsuru.com