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「シンプルに考え、力を尽くそう」
 リシャール・コラスが語る仕事-3
写真
相手の誇りを見逃すな

働く立場はいつも
仕事を前に対等である

 東京・銀座にシャネルのビルを建築することが決まった時、プロジェクトは全て日本側に任されました。建設会社を選んだ私には大きな責任があります。私は専門家ではありませんが、技術的な面をどうしても理解したい、そうすれば自分なりの意見を言うこともできると考えて、まだ鉄骨しか組まれていない段階から建築現場へ通い続けました。

 命綱をつけて真夜中に高い所まで上がるのですが、うめき声が出るほど怖い(笑)。現場で働いている人たちはとにかく「あっ、社長が来た」と驚いていたし、迷惑なこともあったかもしれません。私のヘルメットは現場に置いておき、クレーンの上に乗って、「これはどうなっているの?」などと質問したりしながら、予定が許せば少なくとも週2、3回、1日3回、完成までに300回くらいは現場に通いましたね。

 ある日、私は夜中に鉄骨の取りつけ作業を続けている仕事現場に足を運んでいきました。「とび職」という専門職の彼らは皆20歳前後でとにかく若いのですが、命綱1本で、けがと隣り合わせの非常に危険な仕事をしています。そして夜中に仕事を続け朝5時ごろに下りてくる。仕事を終え、お茶を飲んでいる中に入れてもらったことがあります。すると彼らは「今夜やった作業は良かった。思っていたよりスムーズに進んだな」と話しているのですね。

 この若い人たちは、強い誇りを持って自分たちの仕事をしている。その姿には心打たれました。私にはビルを建てるリーダーとしての責任があり、この専門職の若者たちには、確かな技で鉄骨を組む責任がある。自分の力によって立つ仕事は一つひとつが対等だなあと思うのです。誰とどんな仕事をする時にも、その人の誇りをきちんと認めること。それを忘れてはならないのです。

相手への尊敬は
何かで必ず表現しよう

 かなり複雑な仕掛けをしたビルでしたが、十四、五カ月という驚異的な速さで完成することができました。なぜなら「みんなが緊張感を持って仕事をするために」と、私が相当の無理を言って常識外の建築期限を提示したからです(笑)。きっと建設会社も、とんでもないクライアントだと思ったことでしょう。でも、今までにやったことのない条件は、また新しい能力を引き出すことにもなると私は信じていました。

 さすがに日本の建築技術や伝統は素晴らしいもので、あらゆる場面で感嘆しましたが、それまで、ビルは機械が建てるものだと私が勘違いしていたこともよく分かりました。ビルは人の力で完成していくものであり、シャネルの製品もそうですが、一人ひとりの仕事力が積み重なって誕生してくるのです。

 尊敬の気持ちから、私は中央通り沿いのビルの壁に、建築に関係した我が社の社員、建築家、建設会社の全員、そして空調機納入会社の方や交通整理係の方なども含め約2千500人全ての名を刻印させて頂きました。お子さん、お孫さんにも誇りを伝えられたらと持ちかけた時の建設会社長の涙が、またうれしかった。仕事の大切さは、どれも等しいと私は思います。(談)

リシャール・コラス ●シャネル(株)代表取締役社長。フランス生まれ。パリ大学東洋語学部卒業。国際ビジネスセンター修士課程、ハーバード大学経営大学院アドバンスド・マネジメント・プログラム修了。在日フランス大使館勤務、ジバンシィ日本法人社長などを経て1995年から現職。フランス商工会議所会頭、欧州ビジネス協会会長も務める。旭日重光章、国家功労勲章シュバリエ、レジオン・ドヌール勲章受章。著書に小説『遙かなる航跡』『波 −蒼佑、17歳のあの日からの物語−』他、作家シャンサ氏との共著『午前4時、東京で会いますか? −パリ・東京往復書簡−』などがある。