メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ここから本文エリア

朝日新聞デジタル > 転職 > 仕事力

朝日求人ウェブ
朝日新聞に掲載された求人情報
朝日新聞に掲載された求人情報
会員登録   会員登録すると直接応募やwebメールでの
送受信など色々な機能が利用できます。
ログイン  
パスワードを忘れたら ヘルプ
ご利用にあたって お問い合わせ
 
「分かり合う回路は作れる」
 平田オリザが語る仕事―2
写真
社会性を獲得するために

「自分が正しい」という
思い込みを崩そう

 人と違う価値観を持って、自分らしい生き方をしなさいと両親に育てられた私は、30歳を過ぎる頃まで尖(とが)っていたと思います。弱い人のことがあまり分からなくて、戯曲家としても、「才気あふれる」方向へ走っていました。昔からいる劇団員に言わせると、ワークショップに参加していても、その当時は何を言っているのか分からなかったそうです(笑)。でも私は「馬鹿だな、なんで理解できないんだ」と自分の正しさを疑わなかった。

 やがて、それまで劇団員向けに行っていたワークショップが外でも通用すると分かって、1994年に女子高生21人とお芝居をする仕事をしたのです。私も含めて大人は、高校生って何も考えず、楽しく毎日を過ごしていると思っていますよね。でも世の中には本当にいろいろな子がいて、さまざまに悩んでいると知りました。それから障害を持つ方たちともワークショップをするようになって、「この人は何て面白いことを言うんだろう」と考えるようになった。自分と全く価値観が違う人と出会い、私は今までにない多くの経験をさせてもらったのです。

 人は自分の人生しか経験できないから、自分の方が正しいと感じる。でもそれは、育った環境や、時代の影響を受けた価値観にしか過ぎませんね。誰もが一人ひとり、その人なりの考えや立場を生きているのが社会です。私はこのことが分かって作品に厚みが生まれました。「私の言うことが分かってないな」ではなく、「あなたはどう感じているの」と耳をすませる気持ちが、私の仕事を変えていきました。

週末の社会貢献が
仕事の力を鍛える

 おそらくビジネスの世界でも、これからいい仕事をしていくためには、他の人の暮らしや価値観を知るという社会性が必須になります。月曜日から金曜日までは企業の論理で働かなければいけないとしても、週末には趣味だけではなく、ボランティアに参加したり、障害のある方やお年寄り、子どもと出会ったりする時間など普段とは別の世界を持つ。それは自己満足でもなければ、義務でもなく、あなたの仕事を厚みのあるものにするからです。

 例えば製品開発をする時に、障害を持った子どもたちや、生活に不自由している高齢者の顔が思い浮かぶ。その実感や具体性が大事です。「自分の暮らし」以外の生活が、世の中にはどれほど多くあるか。社会が多様化していると言葉では聞くが、一体それはどのようなことか。窓を開けておかなければ、問題もリスクも見えない。社会性があるとは、他の人の気持ちや悩みに思いをはせるということではないでしょうか。

 若い人も中高年の管理職も、そして経営者も、未知の環境に会うためにさまざまな所へ出かけてみてください。仕事ができるというのは、自分になじんでいることの、その外にも視野を持っているかどうかです。習慣化してしまった考え方に、外から別の価値観を送り込んで欲しいですね。(談)

ひらた・おりざ ●劇作家・演出家。大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授。こまばアゴラ劇場支配人。1962年 東京都生まれ。国際基督教大学在学中に劇団「青年団」結成。95年「東京ノート」で第39回岸田國士戯曲賞受賞。2002年度から独自の公演やワークショップ方法論が国語教科書に掲載され、多くの教室で演劇が作られている。代表的な戯曲に「その河をこえて、五月」(朝日舞台芸術賞グランプリ受賞)他、著書『わかりあえないことから −コミュニケーション能力とは何か−』他多数。