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「感じた人は、行う責任がある」
 羽田澄子が語る仕事―4
写真
仕事で人の力になれるか

映画で踏み込んだ
社会問題の深み

 1983年、私は、自分の映画作り人生に大きな影響をもたらすことになる学術映画を撮りました。ある製薬会社の依頼で作った『痴呆(ちほう)老人の介護』です。自分の撮りたい映画を撮ることに集中していた私ですが、この映画制作は、社会に潜む問題への目を新たに開かせてくれたショックな体験でした。

 30年前の当時、痴呆(認知症)老人の実態はほとんど知られていません。私は撮影した熊本の病院で初めて認知症の老人たちを知り、この人たちの自然な姿を撮りたいと思い、施設ホールの天井に木枠を組んでライトを固定。当時のフィルムの感度でもホールのどこでもうまく撮れるように工夫し、また、つぶやくような声でもシャープに録音できるよう心を砕きました。彼らそれぞれの独自の世界を表現したかった。

 この学術映画を完成させ、これは一般の人にも知ってもらえるような作品にしたいと思いました。重いテーマですが、岩波映画が私の制作提案を受け入れ、新しい映画『痴呆性老人の世界』を3年の年月を経て完成して一般公開されました。私としては映画人として一つ肩の荷を下ろした気持ちでした。

 ところがこの映画の反響が大変に大きく、肩の荷を下ろすどころか、私は映画の上映とともに日本全国へ出かけて話をすることになった。そこでお会いするのは、認知症の老人を抱えながら苦悩する家族の方々です。撮影させて頂いた熊本の病院は、恵まれた数少ない施設であり、日本は高齢化を支える社会システムがまだまだ十分ではなかった。そのことに私自身も無知だったんですね。

 高齢社会に向かっていく日本に対して、どういうアプローチで私は力になれるのか。この作品以来、それが私の映画作りの柱になりました。

見つけた課題は
必ず追う価値がある

 いつどこで動けなくなっても、認知症になっても、支えてもらえるシステムがない日本。では介護を保障している国はあるのか。その答えをスウェーデンやデンマークなど国外に求めた作品を作り、また、国内の自治体におけるこの問題への対応を追う作品なども手がけてきました。高齢社会という大きな問題に対する、日本の政治への不安から私の世代の人間が、今言っておかないと消えてしまうことは何としても残しておきたい。それをこれからもずっと若い世代に伝えられることが、表現や映画の仕事の一つだと思います。

 私の世代は女性がやれないことが山のようにあり、がんじがらめでした。でもその時代が過ぎ去った今、私には、女性や若い人に対するアドバイスなど全くありません。好きなように生きていけばいい。かつての上司が残してくれた「言いたいことがあるなら、誰でも映画を作れる」という言葉が、「課題があるなら何でもやったらいいよ」というふうに聞こえてきました。自分の心の中から聞こえてくる声に耳を傾け、「面白そうだ」「この先に何があるんだろう」「これは変だ」と、素直に気持ちをつかんで自由に動けばいいのです。

 私が自分でできることは映画を作ることだけでしたから、それだけは誰に何と言われようと思いを込めて一生懸命やってきた。これは自分が選んだ仕事である。その納得が迷いや苦労を支えると思います。(談)

はねだ・すみこ ●記録映画作家。1926年旧満州大連(現・中国大連市)生まれ、自由学園女子部高等科卒業。50年(株)岩波映画製作所に入社し、記録映画の演出に携わる。81年以降(株)自由工房を拠点にフリーの記録映画作家として活躍し現在に至る。作品に『早池峰の賦』(文化庁芸術選奨文部大臣賞ほか受賞)、『痴呆性老人の世界』(毎日映画コンクール教育文化映画賞ほか受賞)など多数。新著に『私の記録映画人生』(岩波現代文庫)がある。