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「今日は、今日の力を振り絞る」
 安藤桃子が語る仕事―1
写真
大人の「命懸け」を見た

途方もなく人間臭い
仕事との出会い

 高校から英国の学校へ入学し、そこでひどいいじめに遭っていました。チック症状が出るほどで、母が心配して飛んできてくれましたが、ここで帰国すると後悔すると考え、英国国内での転校で乗り切りました。大学は英国の美大。ずっと、画家を目指して自分の表現と向き合う生活でした。

 18歳の時に休暇で日本に戻った頃、ちょうど父・奥田瑛二の映画監督第1作『少女』の撮影が始まっていて、東京芸術大学美術学部の先端芸術表現科の学生さんたちが美術スタッフとして参加していました。私も誘われ、「自分の絵の勉強になるかも知れない」と加えてもらいました。俳優でもある父の周りにはいつも映画関係の人がいたので、何となくその世界のにおいを感じながら育ちましたが、自分の仕事として意識したことはなかったですね。

 ところが、現場に入って合宿のような1カ月あまりを過ごし、とんでもない衝撃を受けてしまった。内側から見た映画の現場は、大の大人が命懸けでもの作りをする仕事場。それまで私が目指していた絵や彫刻、小説は、自分一人で向き合い続け、作品が完成して初めて他者と関係をつないでいく表現です。その瞬間まではただただ孤独な作業と葛藤が続く。でも映画は、総合芸術と言われる通り、カメラワーク、音声、音楽、美術、脚本など一人ひとりの極限までの仕事を差し出して、さらにそれを拮抗(きっこう)させていく。チームワークなどという言葉では言い表せないほどの爆発力がありました。

映画と恋に落ちる

 それからやはり、製作費への覚悟を持つ仕事人へ強い敬意を抱きました。映画製作ほど目が飛び出るような経費がかかるもの作りは、ほとんど例を見ません。表現者の才能や苦悩とはまた異なる、膨大な費用負担に覚悟のいる仕事。それが芸術というカテゴリーに存在しているスケールの大きさに驚き、映画の壮大さにほれてしまった(笑)。

 命懸けの厳しい洗礼は助監督時代からやってきました。例えば5歳の女の子がダーッと全速力で走ってきて、急に90度右折するシーンを撮った時。でき上がった映像を見ると子役はひょいと右へ走り込んでいくだけですが、実はその先は崖。そこでは私が命綱である安全帯をつけて待ち構え、体ごと受け止めるしかない。リハーサルをし、少女も私に全身を預けるのです。私が傷つくのはいいとしても、少女を崖から落としたら大変なことになる。映画の現場は、そんな真剣勝負の繰り返しです。

 子どもが右に走った数秒の映像の裏では、照明技師を始め何十人という職人が忍者のように電柱のあちこちに登り、どこを見ても緊張した空気が張り詰めていた。映画の現場ではそれぞれの責任が肩にのしかかっていて、一人ひとりの技術に支えられて作品ができ、それでお金を稼ぐ。全ての映像は毎日人間が作る生もので、どんなアクシデントが起きるか分からないけれどやり遂げなくてはなりません。肉体を動かし精神的にも鍛えられる、修業のような仕事こそ、私にとっては「ああ、生きている」と感じられる仕事の場所でした。(談)

あんどう・ももこ ●映画監督・作家。1982年東京都生まれ。ロンドン大学芸術学部卒業後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て、2010年監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』がロンドンの現代芸術複合センターICA(インスティテュート・オブ・コンテンポラリー・アート)と東京の劇場で同時公開され、全国で上映。父親は俳優の奥田瑛二、母親はエッセイストの安藤和津。自身の小説『0.5ミリ』を原作とし、監督・脚本を手掛けた同名の映画(主演は実妹の安藤サクラ)が11月8日(土)から有楽町スバル座ほか全国にて公開。