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「人は、自分で思うより踏ん張れる」
 山口絵理子が語る仕事―2
写真
「美しさ」の共有は命綱

途上国はまだ
生きることに必死だ

 バングラデシュの小さな工場で初めて完成した160個のバッグは、持ち帰った日本でも好評で胸をなで下ろしました。それから「マザーハウス」ブランドバッグのために、また工場を見つけて準備をしていた時、バングラデシュで5年に1度の総選挙があり、与野党対立によるデモが激化。数百人の死者が出て、工場付近でもその被害を受け、道路が封鎖されて工場に行くことができなくなりました。

 サンプル製作の日程が迫って気が気ではなく、やっと封鎖が解けた1週間後に工場に駆け込んでみると、仕入れた素材も、描いたデザイン画も消え、そして誰一人いない。工場のパートナーに何度電話をしても通じませんでした。まだ政情が不安定な途上国ビジネスの難しさで、海外のバイヤーはほとんど引き上げてしまいましたが、でも、だからこそビジネスの可能性を証明したい。仕事の原動力は、青臭いと言われようが、「何のために」とか「誰のために」という目的の原点を見失わないことだと思うのです。

 やがてマザーハウスは、国内屈指の男性パタンナーがいるという、信頼できる生産体制の工場と出会います。「外国のバイヤーは大嫌いだ!」とかたくなに言う彼と何時間も精いっぱい話し合う毎日。特産品である麻の一種ジュートを使い、その自然な風合いでしか表現できない魅力で、目の肥えた先進国の女性たちに「これ、欲しい!」と買ってもらおう、と。彼は理解し、一生懸命になって多くのサンプルを作ってくれました。

スタッフの中から
ヒーローを作る

 その後、2007年には自社工房を構えました。そして革製品を多く手がける今もそうですが、なぜこの曲線が美しいのか、私は下手くそなベンガル語で朝から一日中話し続けます。美しさについて理解し合うのは日本人同士でも難しいけれど、「バングラデシュにも咲く花のように、万国共通の不変の美しさがあるのよ」などと。そんな話をとても真剣に聞いてくれる現地の若いパタンナースタッフが一人いて、彼と向き合って5年間バッグを作り続けていますが、デザイナーである私の描く曲線を直感的に図面に落とせるようになっています。

 彼が毎シーズン型紙を作り、私はその前のプロトタイプを描くのですが、30回くらい同じ枠を描いていると、もうダメだ、前シーズンを超えられないんじゃないかと怖くなります。マザーハウスが大きくなるにつれて予算も増え、1シーズンでも当たらなかったらどれほど大きな影響が出ることか。でもそんな時の「将来、ヨーロッパにもお店出したいね」「これからじゃないか」という彼の励ましで、もう一回トライできる。

 私は、貧しいと言われてきた途上国の人たちの可能性を、魅力的なバッグという形にして証明したいのです。現在140人いる工場のスタッフは、私と一緒に頑張る彼を見ていて、マトリゴール(マザーハウスの現地語)の職人はこうなるべきなんだ、彼はヒーローなんだと口をそろえて言います。140人全てを育てることはできないけれど、一人のヒーローがいれば私が死んでも美しいものを作ることができる。それを残していくことが私の仕事だと思っています。(談)

やまぐち・えりこ ●(株)マザーハウス代表取締役兼デザイナー。1981年埼玉県生まれ、慶応義塾大学卒業。在学中ワシントン国際機関でインターンを経験する。バングラデシュBRAC大学大学院開発学部修士課程修了。2006年マザーハウス設立。バングラデシュの素材でバッグを現地生産し、日本などでの販売を軌道に乗せる。近年ネパールでの生産も手がける。現在、日本と台湾で計20店舗を展開。著書『裸でも生きる −25歳女性起業家の号泣戦記−』『裸でも生きる2 −Keep Walking 私は歩き続ける−』ほか。