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「サバイバルは当たり前」 羽生善治が語る仕事―1
困難な砂利道が面白い
一通り仕事がわかると
落とし穴がある

 誰でも、何もわからないというところから仕事をスタートするのですが、学ぶべきものを全部聞いて、全部やってみて、ある程度積み重ねていくまでは夢中です。将棋の世界はまだ小学生のうちから入ってきますが、学ぶことが非常に多い。私も必死に勉強し、勝負を重ね、そしてタイトルを獲得するという歩みでした。ところが20歳か21歳くらいでしょうか、将棋はこういう指し方をすれば、大体こんな結果を予想できるのではないかとわかった気になっていた時期がありました。何でも一通りできてしまうと考えていたのです。

 でも、それはとんでもない思い上がりで、ただ自分に見える世界だけを見ていたからだと気づいたのです。それは、先人が舗装してくれた道を突っ走るという、簡単なことをしていただけではないのか。20歳の私は、舗装された道なら早く走れる力をつけ、腕を上げた。だが、砂利道や道なき道を猛スピードで突っ走れるのか。まだ舗装されていない道を走ることが、私の力ではないかと思い至りました。

 そのときから意識して砂利道を選ぶようになりました。でもそうすると試合には十中八九負けるのです(笑い)。私なりのアイデアで勝負していくわけですが、いきなり試合を落とすのでとにかく痛い。ただ逆に言えば、それを考え抜いて克服しようというやる気も出てくるのです。失敗は覚悟で新しい形に挑む、私の将棋はそこが原点だと思います。

もがいて自分で考え
初めて知恵となる

 歴史ある将棋には、数え切れない定跡があり、それを学ぶことから始まります。また現代の情報化時代では、単に覚えるだけならとても容易になりました。ただ、私が10代のころはそのデータを記憶するということはほとんどなく、自分で、なぜこうするのかと考え、やってみて、実際にうまくいったとか失敗したとか、そういう実践を積んで理解していきました。本当にもがいて、格闘して自分自身のものにしたのですが、やはりそれが身についたと思っています。証明しろと言われるとできないんですが(笑い)。

 いまは近道がたくさんある。方法論や習熟の仕方が確立され始めている。だから他の人が研究してくれたルートの最短コースで、ある段階までいける環境があります。私の時代には苦労して遠回りするしか道がなかったけれど、最短コースが目の前にあるならそちらで学びたいという思いもわかる。選択肢が増えている難しさを感じます。

 それでも知識は、自分の力ではないのです。頭で覚えた記録や他の人の実績は、自分の立場でやってみて体感し、理解しなければ力を持たない。知識を知恵にするまでのその差は本当に大きいのですが、その距離を埋めていけるかどうか、実行できるかどうか。分かれ目は明確です。(談)

はぶ・よしはる ●1970年埼玉県生まれ。小学2年生から将棋を覚え、5年生で子供将棋大会で常勝。小学校名人戦で優勝後に奨励会入りし、史上3人目の中学生プロ棋士となる。中学3年で四段。89年史上最年少の19歳2カ月で竜王のタイトルを獲得。94年に九段、96年には七冠すべてを制し将棋界最強の棋士となる。2005年王座戦で史上初の14連覇を成し遂げる。永世棋聖、永世王位、名誉王座(現在14連覇中)、永世棋王。その他多くの歴代1位の記録を持つ。主な著書に『決断力』(角川Oneテーマ21)、『挑戦する勇気』(朝日選書)、『羽生の頭脳』シリーズ(日本将棋連盟)、『羽生善治の戦いの絶対感覚――最強将棋塾』(河出書房新社)他多数。