メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ここから本文エリア

朝日新聞デジタル > 転職 > 仕事力

朝日求人ウェブ
朝日新聞に掲載された求人情報
朝日新聞に掲載された求人情報
会員登録   会員登録すると直接応募やwebメールでの
送受信など色々な機能が利用できます。
ログイン  
パスワードを忘れたら ヘルプ
ご利用にあたって お問い合わせ
 
「ネット社会の幸せって何だ?」
 川上量生が語る仕事―3
写真
追い詰められて出る馬力

ネットを挟んで
敬遠し合うな

 コンピューターは便利だけれど人生の主ではないと、僕はいつも思っています。でも、インターネットの世界に強く引き付けられる人は、リアルな世界での付き合いがだんだんおろそかになる傾向がある。本当は付き合いがゼロになる状態を望んでいないのに、自分の世界に打ち込んでしまい、他人と過ごす時間が無くなるという構造があります。そして、希薄になった現実の触れ合いをネット社会で取り戻す。それが多くのネット民と呼ばれる人たちです。

 ただ、そんな彼らが疎外感を抱いていたのは少し昔の話で、今は現実社会がネットに振り回されています。例えばネット上の炎上事件などがそうですね。ある一人の書き込んだ投稿が火種となって、個人や企業への激しい非難が巻き起こる。非難された側は必要以上に大きく捉えて取りあえず形式的に謝っておこうとしますが、その対応はネット世界では「燃料投下」という火に油を注ぐ最悪の行為です。誤解されているような、根拠の無い誹謗(ひぼう)中傷なら取り合わなくていい。でも、最も大切なのは、ネットを炎上させた人が納得できるような説明をすることです。

 仕事をする人間の基本は、誤解された理由が分かれば説明し、こちら側に落ち度があるなら謝ること。しかし間にネットが入り込むと、急に判断がグラグラしてくる。なぜか。お互いにネットの向こう側にいる相手を違う民族のように思うからでしょう。ネットの世界で過ごす時間が長い人たちと、現実社会で仕事をする人たちは、同じ人間同士で何も変わらない。互いに過大評価も過小評価もしないことです。僕の母親はコンピューターが全く苦手なのに、僕にはできない洗濯機の洗い方プログラムは、何種類も難なくやってのけます(笑)。

陣地など気にしない
人が成長する

 僕は新しいプロジェクトを始めようとする時、全くの素人を選びます。「本当に新しい試み」には専門家がいないからです。やったことがないことに対して人間は、何から手を付けていいか分からないし、だいたいゴールも想像できない。それでも僕は、前例がないほどの権限を与えてプロデュースを任せ切ってしまうんです。だから必死になる。人間は「どうしよう、どうにかしなくては」と追い詰められてから、やっと頭と体が動き出すんですよね。どこにこんな力があったのかというような馬力が出る。

 ベンチャー企業の創生期に素晴らしい人材が育つのも、同じ理由です。でもだんだんと組織の中で役割が細分化されていくと、陣地を守るだけだから目覚ましい成長の機会が失われてしまう。やっぱり自分の陣地から出るとか、垣根を越えるとか、無理なお願いをしにいくとか、追い詰められることが大事なんだと思います。現実社会が一番リアルなサバイバルゲームなのだから、ゲームやネットの世界から来たネット民もきっと面白い仕事ができるはずです。

 最後は、「みんなを喜ばせるぞ」と願いながら、頭も体もきつく、寝る間もなく、「面白くしよう、成功させよう」と考え抜くことほど仕事力が鍛えられる状況はないでしょうね。もし、そんな機会が巡ってきたらやってみたらいいですよ。(談)

かわかみ・のぶお ●(株)KADOKAWA・DWANGO代表取締役会長、(株)ドワンゴ代表取締役会長。1968年愛媛県生まれ。京都大学工学部卒業。ソフトウェア会社勤務を経て97年にドワンゴ設立、2003年東証マザーズ上場、04年同第1部に上場変更。11年スタジオジブリ入社、鈴木敏夫氏の見習いを経験。主な著書に『ルールを変える思考法』『ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち』、監修本『角川インターネット講座04 ネットが生んだ文化 誰もが表現者の時代』などがある。