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「仕事は人生を楽しくする装置」
 川村元気が語る仕事―2
写真
「分からない」は強みになる

無力な時を
どう過ごすのか

 新卒で映画会社に入り、最初の配属先は大阪の映画館でした。もぎりや劇場の営業を担当しましたが、一日も早く映画製作に携わりたくて企画書を本社へ送り続けた。そんな社員は珍しかったらしく、何とか3年目にプロデューサー職へ異動となりました。

 初めて企画・プロデュースした映画は『電車男』です。売れている原作や有名監督は30代、40代の敏腕プロデューサーたちが先に取っていってしまう。そんな中へいきなり飛び込み、ツテも経験も知識もない20代半ばの若造がどう戦えばいいのか。必死に考え「ウェブにならまだ誰にも開拓されていないネタが潜んでいるかも知れない」と探して見つけたのがこの作品です。結果、興行収入約37億円という大ヒットになりました。

 同じ業界で長く働いていると、「大体こうやるとうまくいくよね」というところから始めてしまい、いろんな可能性を摘み取ってしまいがちです。ところが、20代は経験も浅く何が正解か分からないので必死に行動するしかない。でもそれが予想外のチャンスを得る仕事力になる。若く無力な時だからこその特権です。

 また、20代って決定権もないし、相手にとってはメリットがないわけです。でも、そういう何も期待されていない状態で築けた関係は一生のものになる。実際、無力で何もできない20代の僕を応援してくれた監督やスタッフたちは、30代半ばになった今、大切な仲間となっています。最新作『寄生獣 完結編』を一緒に作った山崎貴監督もその一人です。そう言えば、「映画は一人では作れない」と教えてくれたのも彼ら。お陰で、どういうチーム編成で撮るかをギリギリまで悩むようになってしまい、周りには迷惑がられています(笑)。

絶望によって
鍛えられるものがある

 僕は「順風満帆」という言葉をあまり信じていません。「一寸先は闇」という絶望が自分の感覚に一番フィットしていて、上がったものは必ず下がると根っこの部分で思っています。担当作品が大ヒットしてもその成功体験にとらわれることはないし、自己模倣もしません。どんなにうまくいっていてもそれは砂上の楼閣であり、薄氷の上にいるという意識があります。

 でも、僕としては仕事って、これ以上最低なことはないと絶望しながら立ち向かった方が面白いんです。最も悲惨な状況を想定しておけば、あとは希望に向かって進むだけです。僕が書いた小説でも、『世界から猫が消えたなら』では「死」を見つめることで逆説的に「生」を描いたし、『億男』では大金を失った状況から「お金と幸せの関係の答え」を描きました。

 映画の製作においても、公開初日に失敗している姿を想像します。そうしてそうならないよう、より良くするための努力を続ける。『寄生獣 完結編』でも、固まり掛けた編集やCG(コンピューターグラフィックス)を何度もひっくり返しながら、少しでも面白くなる道を見つけていきました。ロールプレイングゲームと一緒です。最初は強い敵に一撃でやられてしまう。でも何度も戦いを繰り返すことで鍛えられていく。あの感覚で仕事をするのが好きだし、その方がクオリティーも良くなると信じているのです。(談)

かわむら・げんき ●映画プロデューサー/作家。1979年横浜市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝(株)へ。映画『電車男』『告白』『悪人』『寄生獣』などを製作。2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年発表の初小説『世界から猫が消えたなら』は発行部数80万部を突破し、映画公開が予定されている。近著は2作連続の本屋大賞ノミネートを受けた小説『億男』と、山田洋次や坂本龍一ら第一線で活躍する12人との対話集『仕事。』。