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「仕事は人生を楽しくする装置」
 川村元気が語る仕事―3
写真
違和感を見過ごさない

大事なことを
見逃していないか

 「自分が観(み)たい映画、読みたい小説を創りたい」「本当はそこにあるべきなのに、まだ存在しないものを生み出したい」。この想(おも)いが、僕がものを作る時の発端になっています。

 2010年公開の『告白』も、そんな発想から誕生した映画でした。当時は「笑って泣ける感動作」が主流で、ここまで「人間の悪意を突き詰めたメジャーエンターテインメント」は無かった。ただ、海外では悪意を描いた映画もヒットし始めていたので、日本にもあってもいいのではないかと考えたのです。最新作の『寄生獣 完結編』もまさにそのテーマと向き合った映画です。

 昨年出版した『仕事。』という対談集に登場して頂いた詩人の谷川俊太郎さんと、「集合的無意識」について話し合う機会がありました。多くの人が無意識に共通で感じていることを意味するのですが、僕はそこにアプローチできないかといつも考えています。みんなが薄々気づいているのに口に出していないことや、意外に大事なのに日常の景色として通過してしまっていることって、実はたくさんある。

 それらを一つひとつ取り出して形にしていく。その作業が僕のもの作りのスタートになっています。初めて書いた小説『世界から猫が消えたなら』も自分が携帯電話を無くした日に、電車の中で乗客のほとんどが携帯を見つめている姿に気づき、それをきっかけにストーリーを作っていきました。僕自身、日常を生きる大衆の一人です。だから自分が「面白い」と思うものには大衆性があると信じたいし、一人の切実な想いがヒットにつながると思っています。

「探す」ことより
「気づく」こと

 よく「アンテナを張って情報を収集する」という言葉を聞きます。もちろん大切なことですが、今はそれだけでは厳しい時代になってきていると思います。スマホがあり、インターネットから大量に情報が取れるので、そこで満足してしまう人も多い。ただ僕は「探す」よりも「気づく」ことが、ものを作る上では大事だと思っています。ネットからネタを「探す」のではなく、自分の感情がざわついたり、反応するものに「気づく」。そこにきっと集合的無意識があるのではないかと考えています。

 僕は日常を生きる中で、何げなく目に入ってきたもの、違和感を感じたものを見逃さず、すごく気にして考える癖があります。「どうしてあんなものがポストの上に置かれているんだろう?」「なぜ今頃ドーナツ屋がこの街でオープンするんだろう?」と。ふとした違和感に、何度も思いを巡らせます。ともすると通過してしまいそうなささいな違和感に立ち止まり、少し多めに、長めに考えてみる。すると思い掛けないストーリーが浮かんだり、企画のヒントが見つかったりします。2作目の小説『億男』も、書店に並ぶあまたの「億万長者になる方法」的な本を眺め、「本当に知りたいのはお金と幸せの関係なのではないか?」と思ったところから書き始めたものです。

 「人より少し多め」は、僕がものを作る上でのキーワードみたいなもので、人より多く勉強する、少し多く動いてみる、ということを心掛けています。そうすると案外アイデアにもチャンスにも恵まれる。予想だにしなかったことが起こったりするんです。(談)

かわむら・げんき ●映画プロデューサー/作家。1979年横浜市生まれ。上智大学文学部新聞学科卒業後、東宝(株)へ。映画『電車男』『告白』『悪人』『寄生獣』などを製作。2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年発表の初小説『世界から猫が消えたなら』は発行部数80万部を突破し、映画公開が予定されている。近著は2作連続の本屋大賞ノミネートを受けた小説『億男』と、山田洋次や坂本龍一ら第一線で活躍する12人との対話集『仕事。』。