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「人生のコントローラーを握れ」
 中野信子が語る仕事―4
写真
同調して自分を潰さない

ウイッグをつけ始めた理由

 髪形に限らないのですが、やや奇抜に見えるスタイルを本来の私は好みます。ファッションでゴシックやミリタリーにはまったり、髪も、鮮やかな赤や明るいピンクアッシュにしたり。多様な色とスタイルを楽しみたい。

 ですが、テレビなど多くの人の目に触れる場では、学者としてのコメントに見た目から説得力を持たせたいということで、「おとなしい姿で」という要請を制作サイドからいただきます。

 それなら、ということでウイッグ(かつら)をつけ始めました。仕事の場では本来の自分と、見せるべき自分の姿が異なる方が一般的でしょう。だからそこに、何とか折り合いをつける必要がある。仕事力、とはこのことなのかも知れません。

 ウイッグをつけてみるといろいろなことが見えてきました。特にメディアに出る仕事はそうですが、テレビの中の虚像の「中野先生」の姿や、「中野先生」が言うべきことは「多くの人が見たい・聞きたいこと」なんです。それは、もともとの私の姿や考えていることとは乖離(かいり)している場合が少なくない。

 この点に、私はとても意識的になりました。自分の認知、つまり思考や情動を客観的に眺めることを「メタ認知」と言いますが、ウイッグをつけると、よりその乖離にコントラストをつけることができます。自分に求められていることと、自分が本当に考えていることとの差異に、敏感に、意識的であることができるのです。

同調圧力に潜む危険

 メディアの力はとても強力です。メディアとは、媒介するという意味では、まさに巫女(みこ)と同語と言えるわけですけれど、大衆の見えざる意思が現代における神の声だとするならば、それを言語化し、画像化し、形にして見せるのが現代の巫女であるメディアの役割と言えるでしょう。

 出演している側も、視聴者・読者の側も、その圧倒的な力に思考や感覚を奪われ、求められている答えを提供しようとするあまりに、本来の自分を失ってしまうことがある。それはとても危険なことだと私は思うのです。

 もちろん「多くの人が見たい・聞きたいこと」をお届けするということは、一人の大人として、仕事としてこなしていきたい。けれども、それによって本来の自分自身を失ってしまうというリスクは、できるだけ回避したいと思っています。

 『自由からの逃走』で著者エーリッヒ・フロムが指摘したように、意思決定には大きな心理的な負荷が伴います。脳を測定してみても、そうであることが分かっています。自分自身であり続けることは、とても大変なことなのです。

 しかし、同調圧力に屈し、人間が自分自身であることをやめた時、第三者の手にその人生は奪われます。労働力、収入源、便利な票田、あるいは兵力として、あなたの人生は搾取され、本来の意思は一顧だにされず、利用され続けることでしょう。

 そして、自分自身であることをやめた人が大多数になった時、国はどうなるのか。その時こそ、戦乱の時代が始まるのではないでしょうか。

 どうか、自身のコントローラーを誰かに委ねることなく、自分自身であり続ける努力をして欲しいと思います。(談)

なかの・のぶこ ●脳科学者、医学博士。東日本国際大学教授、横浜市立大学客員准教授。1975年東京都生まれ。東京大学工学部卒業後、同大大学院の工学系研究科と医学系研究科の修士課程を経て医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008〜10年フランス国立サクレー研究所に勤務。現在、脳や心理学をテーマに研究や執筆活動を行っている。主な著書に『努力不要論』『世界で通用する人がいつもやっていること』『あなたの脳のしつけ方』など。