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「デジタルは深く人を支える」
  齋藤精一が語る仕事―3
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この仕事で何を残せるか

僕は人の感性に寄り添いたい

 デジタルを駆使したエンターテインメントが、様々なイベントや商業的な観点から注目を浴びるようになりました。もちろんデジタルを扱う僕にとっても、仕事の依頼が増えチャレンジができるのはうれしく、ありがたいことです。ただ、映像でドーンと表現して欲しいとか、とにかく珍しいデジタル技術で目を見張る演出はできないかなどといった、デジタルを薄っぺらな使い方で短期消費する考え方には賛成できない思いが強くあります。

 すぐに結果を出したい気持ちは理解できます。でも、本来の意味でのエンターテインメントの力である、人とどう同調し共感されるかということの真意を問いたいのですね。それは本当に人が求めるもの、見たことがないものなのか。例えばそこにいる子どもたちの心に残り、印象が長く刻まれるものなのか。そんな軸となる哲学が大切なんです。まあ、いつもこんなことを言い始めるので、ちょっと面倒くさいやつだと思われるのですが(笑)。

 デジタルクリエーティブ、あるいはエンターテインメントは、人をいきなり未来へ連れて行く魔法じゃなくて、まるでらせん階段を上るみたいに少しずつ、自分のアンテナが広がっていくことを感じてもらう大切な道具の一つです。例えば僕は、ねぶた祭りに行くと涙が出てきます。なぜか。あれだけ多くの人々がほぼ同じ思いで、同じ方向を見ている。ホタルがみんな明滅を同じにするという、生物同調性のようなものがあるからでしょう。やっぱりそれが心から気持ちいい。こういう人間の感性は、たぶんこれから何百年経っても変わらないはずです。

 よく仕事の打ち合わせで、僕がいきなりアナログな企画を提案するとかなり驚かれます。でもそれは、本質的に人を幸せな気持ちにしたいという思いが根底にあるからで、まずは人のつながりを作りましょうよ、と。デジタル優先の企画で、人のつながりのないところにいきなり踏み込んでも、2日で消費されて終了ですよ、と言ってしまいますね。この仕事で何を残せるかと、いつも考えます。

思考をデジタルに依存しない

 人工知能は将来的に人の職を奪うと話題になりますが、僕はそう思いません。デジタルテクノロジーが得意なのは、「風が吹けば桶屋(おけや)が儲(もう)かる」ということわざのような、風が吹いて桶屋が儲かるまでの連鎖をデータで綿密に解析し、その遠い因果関係を測ることです。でも僕たち人間は、もっと人が喜ぶものを考えることができますよね。それを考えついたら、デジタル技術に支えてもらって実現すればいい。

 もっと言えば、日本の文化やコンテンツ、時代の中に見え隠れする人々の欲求をしっかりとつかんで、さて、デジタルという皿にどう載せて仕事にするか、ではないですか。今までは物理的に難しかったプロジェクトが、デジタルなら速やかに動かせるかも知れないという、やっぱりすごい道具です。だからこそ「何をするか」の哲学が大切になってきます。

 これからはもっと、世界中から問われます。「君は何をしたいの?」「あなたの会社はどんな貢献をするの?」「日本には面白いものがあるの?」。そのオリジナルの考えを準備しておいて欲しいのです。(談)

さいとう・せいいち ●1975年神奈川県生まれ。(株)ライゾマティクス代表取締役。東京理科大学理工学部建築学科卒業。コロンビア大学大学院で建築デザインを学びニューヨークで活動開始。2003年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出され、帰国後06年から現職。アート、コマーシャルの領域で立体、双方向性の作品を数多く手掛ける。国内外の広告賞多数受賞。15年ミラノエキスポ日本館シアターコンテンツディレクター。