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「選んだ仕事に魂を込める」
  吉田克幸が語る仕事―4
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衣の文化は、人の財産

守り抜きたい日本の手技

 私は民俗学に強い関心があり、数年前に日本の各地を訪ね歩いていた時、青森などの東北地方で「刺し子」文化に出会いました。厳寒の地で生きていくために、200年以上前から伝承されてきた「衣」の民間技術です。私は、その刺し子を施した古い衣類に魂を奪われ、まるで呼ばれたのかと思うほどの衝撃を受けました。

 かつて、この地の厳しい寒さでは、布にできる植物は麻ぐらいしか育たなかったそうです。ゴワゴワとして硬い素材ですが、それで布を織る。しかし目が粗くて保温力も足りないので、寒さをしのぐためにどんな端切れも大切に取り置き、ほころびた部分を繕い、一針一針縫い重ねて家族何代にもわたって使い続けてきたという。やがて綿糸が入ってきて、家ごとに異なる文様を刺す工夫がされていったんですね。その美しさは紛れもなくアートであり、保存された衣類を見て、私は人間の生き抜く強さに魂が震えました。

 ところが残念なことに、貴重な刺し子の衣類は既に作り手がほぼ途絶えてしまい、本物は博物館にしかないような現状です。こんなにすごい日本文化が消えていくのか。そう思ったら、この価値を後世に伝えたいという強い気持ちが止まらなくなってしまった。思いだけが先走りするのは私の常なのですが(笑)、実行するには資金も技術も必要です。とても難しい、でも諦めたくはない。息子の玲雄は、父親の気持ちをかなえようと本当に腐心したと思います。

 そして、思いが強いと応えてくれる人がいるという体験をしました。命懸けで、刺し子の復元をやりますと職人さんが手を上げてくれたのです。オリジナルの古い衣服や布はわずかしか残されていません。だから私たちは本当に努力を重ねて、現代に愛される刺し子の素材とデザインを開発したのです。おおよそ5年近い歳月が掛かりましたが、フランスなど海外でも喜んでもらえるようになりました。ひとまず日本の伝統文化を守れたことが、本当にうれしかったですね。

 私と息子の玲雄が約束したのは、美しくて、しかも気持ちがいい物作りなんです。この刺し子という日本の技術には、着る人の体にフィットしながら心まで包むような、人間の優しさの本質があると思っています。

仕事に迷ったら人間を見る

 私は今、70歳になります。まだまだ学びたいこと、知りたいことが多くて忙しい。ただ、今まで私は仕事の岐路に立った時、自分の直感に素直でした。例えばカバンは一つの道具ですが、それを使う人間には肉体があり、役割がある。刺し子を施した衣類にも、寒さと闘う人間の暮らしが基本にあって、さらに美しい文様を工夫するという楽しむ気持ちがある。そこに素直になること、そこから目をそらしてはダメなんだということです。

 時代は目まぐるしく変わっているように見えるし、あれがいい、こっちがいいとやかましいでしょ。でも私は基本的に「見ざる、言わざる、聞かざる」を通します。人がどう言っても放っておく。ただ心を澄まして、自分がこれだと選んだ仕事に持てる全力を注いでいきます。刺し子文化を後世に残したい。若い人にその価値を伝えることが、今、私が選んだ仕事です。(談)

よしだ・かつゆき ●1947年東京都生まれ。(株)ポータークラシック代表。長年にわたって名品と呼ばれるカバンを世に送り出す。その影響はカバン業界にとどまらずアパレル業界をも常に牽引(けんいん)してきた。81年ニューヨーク・デザイナーズ・コレクティブのメンバーに日本人で初めて選出。2007年息子の吉田玲雄とポータークラシックを設立。“刺し子文化”を後世に残すことに尽力。一貫して“メイド・イン・ジャパン”を掲げる。