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「シュートなくして、ゴールなし」
  川淵 三郎が語る仕事―1
写真
人の顔色を気にした10代

自分の意見が言えなかった

 私を知っているほとんどの方がまさかと笑うだろうけれど、高校生の頃までは思いをはっきりと主張しない人間でした。相手がどうしたいと思っているのか、どう言えば喜んでもらえるのか。無意識のうちに相手の気持ちをまず第一に考えていたんでしょうね。

 ところが、友人のお母さんがそれではいけないと気づかせてくれたのです。当時、私は大学受験に失敗し、既に合格して家を出ていった友人宅で食事つきの居候中でした。ある時、仲の良かった女友達2、3人が、キャンプに行くけれど参加しないかと声を掛けてくれた。そりゃあ行きたかったですね。でも浪人の身です。親身になって世話をしてくれる友人のお母さんに申し訳ない、行くべきじゃないと考えて断ったのです。

 けれど、よほど私の態度が残念そうに見えたのかも知れません。そのお母さんから「なぜいつも、自分のやりたいと思うことをはっきりと口に出さないの? やりたいことをやればいいのよ」とビシッと言われました。もう60年余り前のその日を今も強烈に覚えています。

 私は情にもろい部分もあって相手の気持ちをおもんぱかりすぎ、本音を抑え込んでしまうのだなと思いました。お母さんは、自分に遠慮している私の様子を見通して助言してくれたのですね。きっと私もどこかで、はっきりと言葉にできない自分をもどかしく感じていたから、グサッときたのでしょう。本音を言うのは少し怖い気もしましたが、「口に出してみよう、その結果、人の反応は様々であっても、それはそれで受け止めればいいんだ」と考えたのです。

 そして、とにかくはっきりと意見を言ってみる川淵三郎に変わっていったのですが(笑)、古河電気工業に入社した私は、案の定、社会人としてはかなりの異端児になっていました。

「面従腹背」はしない覚悟

 古河電工に入社し、工場に配属されて2年目の忘年会で、総務部長から今日は無礼講だから言いたいことを何でもいいから話しなさいと促されました。手を挙げる人がほとんどいない中、私は「今年は人身事故が多かった。起きてから事故対策を後追いでやるのではなく、危ない所はやはり事前に手を打っておくべきではないですか」と発言したんです。総務部長の逆鱗(げきりん)に触れましたね。「君はっ! そんなのは公文書で出したまえ。こんな所でそんなことを言うのか!」と。

 言いたいことを何でも言ってみたまえとおっしゃったじゃないですかと私も反論し、まあまあと人事部長が収めてくれました。でも明らかに上司からは、新入社員の川淵は生意気なやつだと思われたでしょう。しかし思い切って言葉にすると、川淵は本音を言うと周囲が覚えてくれる。心の中では同じ考えを持つ同僚もいたと思います。

 上辺だけ上の者に従うふりをしながら内心では反発することを「面従腹背」と言いますが、その場は収まっても、長い目で見れば組織にとって最悪です。せめて自分だけでも面従腹背はしないように生きようと覚悟しました。面と向かっての反対意見は無理でも、「僕としてはそうは思えません」ぐらいでもいい。シュートしなければ、ゴールはないからです。(談)

かわぶち・さぶろう ●日本サッカー協会最高顧問。1936年大阪府生まれ。61年に早稲田大学卒業後、古河電気工業入社。64年サッカー競技で東京オリンピックに出場。その後サッカー日本代表監督などを経て91年Jリーグ初代チェアマンに就任。2002年に日本サッカー協会会長就任、08年から現職。日本トップリーグ連携機構会長、日本バスケットボール協会エグゼクティブアドバイザーなど肩書多数。著書『独裁力』『「J」の履歴書』ほか。