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「人間の野性と本能を描く」
 仲代達矢が語る仕事-3
写真
帰り修業のすすめ

「無名塾」への思い

 日本の俳優はみんな、食えない食えないとこぼしますが、まだまだアメリカや諸外国に比べたら天国です。とくにアメリカなどでは役者の数が多く、そこで競い合って実力がトップの人間だけが出てくる。私もそういう厳しい競い合いで、レベルの高い魅力のある俳優をこの国で育てたい。それが「無名塾」創設の動機でした。

 33年間、国やそのほかの企業からの援助を一切受けず、また塾生には授業料の負担をかけず、すべてを自ら引き受けて、ただひたすら演劇という文化の本質を担う俳優の卵を育ててきたつもりです。

 入塾を希望してくるのは、高校生も含めてみな無名ですから、私たちは真剣に才能を見極める審査をし、3年間懸命に向き合います。この期間で舞台の上手(かみて)から下手(しもて)へ普通に歩くことができるように、正しく美しい日本語が話せるようにしなくてはなりません。俳優の力は、そういう基礎をおろそかにすると観客に伝わらないのですが、それが何とか身につくのに3年くらいはかかるということなのです。

 自分の体で人間を表現するプロとして、よって立つ能力はそこであり、この「人間力」こそ死ぬまで俳優を続けるためにたたき込まなければならないものでしょう。

 残念なことなのですが、プロになってからも「売れないかな、売れないかな」とキョロキョロするだけで終わっていく俳優は多い。私は五十数年もこの世界にいますが、優秀な新人が出てきたと期待されていても、一時の売れたい願望による使われ方と運の悪さ、そしてそんなことに気をとられこの努力をさぼっているうちに落ちていく俳優を随分と見てきました。

垢(あか)を落とす手立てを
持っているか

 無名塾からは多くの塾生が巣立ち、この世界で活躍していますが、俳優というのは、使う側が、成功した役と同じイメージを求めて起用する。当然ですが次第にマンネリになっていき壁にぶつかる日が来ます。その時にもう一度「無名」になった気持ちで戻ってこいと、無名塾という名を付けたのですが、なかなか戻ってこないですね。

 プロなら、自分の芸に垢が付いているかもしれないと感じた時、初心に立ち戻る「帰り修業」が必要だと私は考えているのです。仕事の質を高めようとすれば、生涯それを繰り返さなくてはなりません。かつて、アメリカの俳優養成所の一つである「アクターズ・スタジオ」を見学した時に、あのロバート・デニーロなど活躍しているプロの俳優たちがそこに戻って、もう一度自分の演技を見てもらい、洗い直している現場に遭遇しました。私のやりたいことがここでは実現していると思ったものです。

 どうしても俳優は、これで食えるという引き出しだけで芝居をするようになりますが、それは質の高さではないのです。例えばベテランと呼ばれる年代になっても、新しい一つの役に立ち向かう時には新人とまったく同じ取り組み方を目指し、なるべく今までに自分で作った引き出しをぶち壊そうと思う。それは、払おうとしてもどこかに付いてくるものですが、それでも壊したいからこそ私も、新しい役に挑戦し続けているのです。(談)

なかだい・たつや ●俳優・演出家・「無名塾」主宰。1932年東京都生まれ。55年俳優座養成所卒業、同年デビュー作舞台「幽霊」の演技で注目を浴びる。59年『人間の条件』、62年『切腹』、80年『影武者』などの映画で多くの主演男優賞受賞。75年舞台「令嬢ジュリー」「どん底」で芸術選奨文部大臣賞、毎日芸術賞受賞。この年「無名塾」を始める。出演、演出作品多数。最新作に、舞台「ドライビング・ミス・デイジー」、映画『引き出しの中のラブレター(仮題)』(2009年秋公開予定)、テレビ「風林火山」などがある。文化功労者、紫綬褒章、勲四等旭日小綬章を始め受賞多数。著書に『遺し書き』(主婦と生活社)がある。無名塾公式ホームページ http://www.mumeijuku.net