メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ここから本文エリア

朝日新聞デジタル > 転職 > Heroes File

朝日求人ウェブ
朝日新聞に掲載された求人情報
朝日新聞に掲載された求人情報
会員登録   会員登録すると直接応募やwebメールでの
送受信など色々な機能が利用できます。
ログイン  
パスワードを忘れたら ヘルプ
ご利用にあたって お問い合わせ
 
Heroes File
Vol.143 後編

「文学」という新たな道へ

 20代前半はアルバイト、後半は歌手活動に全力を注いだ川上さん。その過程で、新たに自身が進むべき道として選んだのが詩の世界だった。

 「言葉はひとりで書くことができます。それがとても素晴らしいことに思えました。書き始めると、止まらなかった。わたしには言葉があったんだという喜びと、これで本当の最後かもしれないという気持ちで書いたのが、『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』でした。これを雑誌『ユリイカ』の編集者が読んでくれて、『すごくいい』と言ってくれた。その言葉は今でも忘れられません。これだと思える作品が、やっと誰かに届いたという感触がありました」

 この詩が、ある編集者の目に留まり、「小説を書いてほしい」と依頼される。小説執筆の経験はなかったが、思い切ってチャレンジし、『わたくし率 イン 歯ー、または世界』を完成させた。同作は芥川賞候補作となり、さらに翌年発表の『乳と卵』で同賞を受賞することとなる。

 「30代になってようやく一生かけて取り組むべきものに出会えた気がしました。ただ、それ以上に一作書き終えるとその度に欲が出るというか、ここがうまくいかなかったなとかいろいろ反省点が浮かび上がってきて、次回作でそれらをクリアしたくなる。前作を超えるものが書きたくてしょうがなくなるというか、それをひたすら繰り返しながら今に至っているというのが実感です」

小説家としての幹を太く

 これまでの人生で、モチベーションが切れたことはないという。常に課題が目の前にあって、懸命に取り組んできたから。「今はそれが小説。小説を書くことが、生きることとますます一体化しているのを感じます。何よりこれだけ夢中なので、小説の方も、わたしから離れないでいてくれればいいなと思っているんですけど」

 長編を書く時は毎回苦しくてしんどい。気負いもあって極度の緊張感の中で書き続けるので体調を壊すこともしばしばだそうだ。ところが、今年10月に発売された長編小説『あこがれ』だけは違った。

 「書き進めるのが楽しくて、逆に後ろめたかった(笑)。小説の面白さは、書き手がどれだけ苦しむかに比例していると思っているところもあったのかな。でも『あこがれ』の読者の感想に『川上さんの小説を読んで初めて幸せになれた』とあって、照れつつもそういうのもうれしいなって。ああ、こういう作品を書いてもいいのかな、という新たな発見にもなりました」

 現在3歳の息子の母でもある。子育ては当分続くが、様々な小説を書き続けることで、小説家としての幹を太くしていくこともおろそかにしたくない。「そう遠くないうちに、うんと長い小説を書きたいです」

(井上理江=文 小山昭人=写真)
次回は広告企画「Heroes File」で歌舞伎俳優の市川猿之助さんを紹介。
2016年1月10日(日)に掲載する予定です。

川上 未映子
かわかみ・みえこ 1976年大阪府生まれ。2007年に早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞し、08年に小説『乳と卵』で芥川賞に輝く。以降、小説や詩、エッセーなどを執筆、中原中也賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、紫式部文学賞、高見順賞、谷崎潤一郎賞など各賞を獲得する。この10月に4年ぶりの長編小説『あこがれ』が発売された。
「マイナビ転職」からもご覧いただけます。

今週の厳選求人
【東京本社版】
開隆堂出版株式会社 管理部門スタッフ(総務・経理)
株式会社グローバルキッズ 保育士
株式会社インターメディカル 編集スタッフ【栄養・保健・助産・看護分野】
12月20日(日)、12月21日(月)付け朝日新聞東京本社版朝刊も併せてご覧下さい。