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1月28日、東京国際フォーラムで開かれた就職イベント「職選広場〜転職者・新卒者のための合同企業説明会」。オープニングセミナーには、元プロバレーボール選手で現在はプロチーム「堺ブレイザーズ」の監督を務める中垣内祐一さんが登場し、自身の体験談をまじえながら、転職・就職に向けての心がまえを語りました。

エンジニア、体育教員を夢みた学生時代
いつのまにかバレーボールの世界へ
相川 今、私はフリーアナウンサーをしていますが、大学卒業後に共同テレビに入社し、フジテレビのアナウンス室に出向してそこで6年間仕事をしていました。ですから就職活動の経験も、会社員の経験も、転職の経験もあります。
 そんな立場から、今日は中垣内さんにお話をうかがっていきたいと思います。

中垣内 私は今、新日鉄からブレイザーズスポーツクラブという会社に出向して、堺ブレイザーズの監督をしています。ですから、会社員、プロスポーツ選手、出向、プロスポーツチームの監督という経験があるので、そんななかからお話させていただきたいと思います。

相川 そもそも、バレーボールを始めたきっかけは何だったんですか?

中垣内 プロスポーツ選手のなかには、子どもの頃からプロ野球選手になりたいとか、世界大会に出たいといった夢をもっていた方が多いと思います。ところが私は、高校時代に担任の先生にたまたま誘われたのがきっかけでバレーボールを始めたので、ほかのスポーツ選手に比べると、モチベーションが低かったかもしれません(笑い)。

相川 それは意外ですね。高校時代は、あまり目立たない選手だったそうですが。

中垣内 スポーツよりは勉強を重視する高校だったので、練習も、大会の1週間前から始めるといったペースでした。本格的にバレーボールをするようになったのは、大学に入ってからです。
 大学受験の時、国立大学の工学部を志望していました。将来は、企業の研究室に勤めてものづくりに携わりたいと考えていたんですが、成績が追いつかない……。目標校に行けないなら、バレーボールの道もいいかなと、進路を変えました。バレーボールの強い筑波大学に入ったのは、バレーボールが好きでというよりは、ある意味では、逃げ道だったのかもしれません。大学に入学した頃も、卒業したら田舎に帰って体育の教員になろうと思っていました。

相川 でも、こうして今もバレーボールの世界で仕事を続けていらっしゃるのだから、不思議なものですよね。

中垣内 本当にそう思いますね。自分の意思とは違うところで物事が運んでいったような気がしています。

志は高く。自分を律してミスを減らす
先輩たちに学んだことは多い
相川 スポーツ界で活躍されるなかで、印象深い出会いはありますか。

中垣内 選手時代のことなんですが、日本のバレーボールが強かった1960〜70年代に世界で金メダルをとった方たちの話を聞いて、やはりレベルが違うなと思いました。私たちの目標が低いというんです。国際大会出場を目標にするのではなく、世界一になることを思い描いていないと、2位にも3位にもなれるわけはない、と。

相川 志を高く持て、ということですね。

中垣内 目標が高いから、練習に対する姿勢も違う。すべては世界一になるための練習です。
 たとえば、練習中に人差し指を骨折したら、ふつうなら練習をひかえますが、彼らは、こんな痛みに負けていたら世界一になれない、痛みを我慢すればいい、というんです。なかなかまねできませんけど(笑い)、そういう意気込みで練習しているんです。

相川 それを受けて、中垣内さんに変化はありましたか。

中垣内 本格的にバレーを始めたのが遅かったからか、どこかに甘えがあったんです。「痛いときに練習したって仕方がないじゃないか」と。でもそうじゃないんですね。痛みを我慢してでもやならなければいけないときがある。だからその話を聞いて、体調が万全でないときもやるべきときと、そうでないときの違いがわかるようになりました。風邪で熱があっても、試合前に点滴をして、試合後また病院に戻ったりすることもありました。

相川 心に残っている監督の言葉はありますか。

中垣内 筑波大に入った当時、私は、オーバーパス、アンダーパスすらうまくできないような状態でした。周りは、中高時代からバレーボールをしていて全国大会出場経験もあるような連中ばかりですから、練習ではずいぶん絞られましたね。試合でのミス、それもつまらないミスが減らない……。そんなとき、監督にいわれたんです。
「おまえは、練習する4時間のなかでだけミスを減らそうと思ってる。一日の残りの20時間はどうだ、ミスばっかりじゃないか。そんな姿勢で練習中のミスを減らそうと思っても減るわけがない」
 なるほどと思い、ふだんの生活から気をつけてみようと考えました。小さなことですが、たとえば、眠いから授業を休もう、約束ごとが面倒だ、などという考えを改めたり、寝る前に歯を磨く、朝起きたら顔を洗うなど。そうやって「自律」を意識するようになってから、集中しなければいけないコートの上でのミスが減ったんです。

相川 なるほど。ところで、苦しいことがあっても、バレーボールを続けてこられたのはなぜだと思いますか。

中垣内 たまたま始めたバレーボールですが、そこでおもしろさを見つけられたからじゃないでしょうか。企業で仕事をするみなさんも同じだと思うんですよね。特別な思い入れがあって入った会社ではなくても、そのなかで一生懸命やるうちに、おもしろさを見つけることがある。それが大事なんだと思います。相川さんもアナウンサーのおもしろさ、感じていらっしゃるでしょ。

相川 そうですね。生放送で突発的なことが起きてうまく対処できたときは、やった! と思わずガッツポーズがでますよね。
 さきほど監督さんの言葉がありましたが、私にも忘れられない言葉があります。入社3年目、出演していた「笑っていいとも!」で大きなミスをしてしまったときのことです。司会のタモリさんに謝ったら、「いいのいいの、おまえはがんばらなくていい。そのままいけ」っていわれました。驚きましたね。がんばらなくていいという発想は、それまでの私にはなかったからです。それ以来、肩の力が抜けて、仕事が楽しめるようになりました。

中垣内 気負い過ぎて、過度に緊張していたんでしょうね。肩に力が入った状態で仕事をしても、いい結果は出ないというアドバイスだったんでしょう。

引退後のことを考えて
オフィスワークにも貪欲(どんよく)な姿勢で
相川 中垣内さんは、新日鉄の実業団にいた頃、サラリーマンとしてデスクワークをしていたこともあるんですか。

中垣内 日本代表チームにいた頃は、5月から11月のあいだに出勤できるのは2、3日くらい。それ以外の時期は、Vリーグの試合をしながら、午前中は会社にいました。席にいるだけの人もいましたが、私はそれではもったいないと思って、とにかく何か仕事をやらせてください、手伝うことはありませんか、と上司にいっていましたね。バレーボールと同じで、なんでも吸収することに貪欲であったと思います。

相川 バレーボールに没頭する分、仕事はしなくてもいいとは思わなかったんですか? 
中垣内 バレーボールを辞めたあとには会社で働くことになりますから、そのときのために、一歩でも二歩でも踏み出したかったんですね。仕事らしい仕事はできませんでしたが、いろいろな知識を吸収することができたと思います。

相川 サラリーマンとスポーツマンの切り替えは大変でしたか?

中垣内 そんなことはありません。どちらも、目標があって、それをクリアするために計画を立て、実行して、その目標を到達するという作業は同じですから。

相川 今の若い人を見ていて、感じることはありますか。

中垣内 「今の若いものは」という言葉は、昔からいわれているものだと思います。成長した年長者の人が若い人を見ていると、いいたくなるんでしょうね。
 私は、今の若い人と少し前の世代を比べても、本質はそれほど変わらないと思います。ただ、スポーツの世界でいえば、昭和の時代は、スポーツで一旗あげよう、スポーツで食っていこうという人が多かったのですが、今はスポーツでなくても何らかのかたちで生活していけるようになった、ということくらいでしょうか。逃げ出したいときに、逃げ場所があるかないか。スポーツに対して、覚悟があるかないか。そういう違いはあると思います。

相川 今の若い人だけがもっているものはありますか。

中垣内 自己主張がきちんとできる風潮がありますね。それはいいことでもあり悪いことでもあるんですが(笑い)。過度に主張すれば、組織のなかでは不具合がでてきますし、難しいところですね。

選手と一緒に勉強し、成長していこう
補い補われる組織をつくっていく
相川 監督として活躍していますが、トップに立つというのはどんな気分ですか。

中垣内 自分たちが決めた目標に到達できれば、それは何ものにも代えがたい達成感、満足感が味わえます。これはスポーツに限ったことではないと思いますが。

相川 途中でくじけそうになることはありませんか。

中垣内 監督になって1年目、勝つことができずに、厳しいシーズンを送りました。そのときに、いろいろな本を読んでいて、「障害物は、あなたに必要なことを教えるまで消えない」という言葉を見つけました。要するに、私に足りないものがあるからそれが障害物になるんです。私が成長すれば、そんなものはたいしたことではなくなるはず。だから障害物に対して逃げ出さないことが大事なんだと思いました。その言葉で、ふっきれた気がします。

相川 トップとして、部下の方たちと接するときに心がけていることは。

中垣内 リーダーに求められるのは、組織としての明確なビジョンを持つことだと思います。そしてそれをきちんと提示すること。あまりにも現実とかけ離れた目標ではなく、達成しうる可能性のある目標です。そして一人ひとりに役割を与えること。それらをつかさどる言葉と態度を持つこと。これは私もまだ足りないと思っている部分なんですが、人を動かすような、心のなかに入っていける言葉をもつリーダーは、とても強いと思います。

相川 リーダーが明確な目標を立ててくれると、下の人も動きやすいですよね。

中垣内 役割があれば、それをこなすうちに仕事もおもしろくなっていきますし、責任もやりがいも持てるようになっていきます。

相川 若い人を育てるために、目標を立てていくんですか。

中垣内 プロ野球の野村克也監督が、コーチとは人間を成長させること、とおっしゃっていますが、私もそう思います。若い人の技術的・精神的な成長なくして勝つことはできませんから。けれど、監督になったばかりの頃、私に人間教育ができるだろうかと悩みましたね。そしてそこから、選手たちと一緒に勉強していこうと、考えるようになりました。そうすれば、お互いが成長していけます。

相川 選手の起用法は。

中垣内 まず、どういうチームをつくるかというビジョンがベースにあります。一人ひとりがどんな戦力をもっているのかを把握して、その組み合わせが大事なんですよね。決して、レベルの高い人ばかりを優先的に選ぶのではありません。
 たとえば、レシーブは下手でスパイクしかできなくても、それがずば抜けた能力であれば、レシーブはほかの人にカバーさせればいい。能力を示す円グラフがあったとしたら、リーダーは、大きな丸い円の能力をもった人材を求めがちです。確かにそれが理想ですが、でも実際は、そんな人はなかなかいません。ほとんどは、一つだけ伸びているといった具合です。バランスのよくない人はダメだとするのではなく、組み合わせで、一人ひとりの能力を生かしていきたいと思います。補って補われてという関係が、コートのなかでうまくつくることができればいいですね。

相川 選手自身が、自分の能力に気づいていない場合はどうしますか。

中垣内 よくあるケースです。しかし、自分のことを客観的に見ることも、スポーツ選手に求められる能力。きっと会社員でも同じです。
 まず目標を定めますよね。スタート地点から山を登っていくんですが、途中で、今、自分がどの地点にいるのかを認識ができない人は、残念ながらある程度のところまでしか成長しないと思います。
 そこで必要なのは、周りをよく見て、自分の内側にも目を向けることなのではないでしょうか。自分の性格、長所や短所、何が武器なのか、苦手なのか、それを実際に書き出す作業が大事。私たちもよくしますが、それを重ねていくことで、自分を見つめ直すことができますよね。
 同時に周りを見ることも重要です。相川さんも先輩アナウンサーたちの仕事ぶりから学ぶことがあると思います。「敵を知って己を知れば、百戦危うからずや」といいますが、敵も自分も、両方知ってはじめて戦術が立てられるんです。

仕事に誇りと責任と向上心を持つ
「プロ」の意見を聞いて、視野を広げる
相川 人を動かす、動かされるという観点で、必要な要素はありますか。

中垣内 モチベーションにあふれている人は、一つ指示をするだけで突き進んでくれます。難しいのは、やる気にあふれていない人を、どうやる気にさせるかです。企業なら「やめていただいて結構」となるのですが、戦力の少ないバレーボールチームではなかなかそうもいかなくて(笑い)。
 監督としてどうするかというと、まず役割を与えるんです。役割があれば「組織のなかで、自分はここを担っている」という充足感が得られます。そして結果に対してほめていくこと。いろいろなタイプの人がいますから、同じ手法は通用しません。人を動かすことは、私にとって「障害物」で、今まさに試行錯誤をしているところです。

相川 逆に、やる気が空回りしている人に対してはどうすればいいですか。

中垣内 それこそ、さっきのタモリさんの話じゃないですか。肩の力を抜くこと。スポーツのなかでは、休むことも練習のうち。休んだ後は、今までの状態よりも良くなっていることが往々にしてあります。

相川 煮詰まったときに、一度、休むのも手かもしれませんね。勝つ組織、勝つリーダーの必須条件は何ですか。

中垣内 具体的な目標を持つことと、コミュニケーションができる風通しのいい環境にすること。
 日本のスポーツ界では、昔、監督は、選手をコマのように扱っていました。しかしそれは、今のコーチングの世界ではまったくナンセンスです。
 監督と選手の関係について、こんな例えがあります。
 馬とそれを操る御者、馬車があるとします。昔は、監督が御者、選手が馬でした。でも今求められているのは、監督は御者、選手は馬車に積んである荷物という関係です。監督は選手を、次のステージまで、より早く、より熟成させて届けてあげなければいけないということです。これをしろ、あれをしろ、と指示してトップダウンで成り立つ世界ではないんです。
 動かされる側も、自分から、これもやってみよう、あれもやってみようと考えていける人が必要とされます。スポーツの世界では、双方向のコミュニケーションがあり、チームのなかで、入り組んだネットワークをつくることが大切なんだと思います。

相川 目標は、近い目標がいいのでしょうか。

中垣内 短期的、中期的、長期的のすべてを持つべきだと思います。より具体的に、今日は何をすべきかという目標も重要だと思います。

相川 仕事を通して、こだわり抜いてきたことはありますか。

中垣内 同じ世界にいると、視野が狭くなりがちですから、いつもいろいろな人、特に「プロ」の意見を聞こうという姿勢でいます。
 私は、プロフェッショナルという言葉が好きなんです。世の中にはいろいろなプロがいますよね。相川さんのように話すことのプロもいれば、マネジメント、道路工事、皿洗い、野球……。
 ここで私がいうプロというのは、自分の仕事に誇りと責任と向上心をもっている人という意味です。プロには、やはりその人なりのこだわりやノウハウ、苦労があるはずです。そういう話を聞いて、得られることはたくさんありますから。つねに「プロ」に対しては、アンテナを張るようにしています。

相川 なるほど。最後に、就職活動中のみなさんにメッセージをいただけますか。

中垣内 私は、おもしろさも目標もわからないまま、たまたまバレーボールの世界に入りました。最初は他人が敷いたレールの上を歩いていましたが、自分なりのおもしろさを見つけてからは、そのレールを外れて、自分自身で歩んでいるつもりです。
 みなさんの仕事でも同じようなことがあると思うんです。自分のめざしているものと違うと思う仕事でも、そのなかで自分なりの楽しみを見つければ、取り組み方は180度変わると思います。
 日々、目標をもって、過ごしていただきたいと思います。

相川 中垣内さんの熱い気持ちが伝わってきました。今日はありがとうございました。

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