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(東京大学社会科学研究所助教授/経済学博士)
玄田有史が語る仕事―就職編
転職をサクセスに導くために
明るい転職、
明るい人生のために、
語れる「何か」を持とう

 氷河期という言葉に代表されるように、ここ十数年、就職に関して厳しい時代が続いていました。このような時代にあって、プロフェッショナル志向が高まり、個人は自己努力で資格を取ったり、語学力を身につけたりして、社会全体も専門化を後押しする方向に大きく舵(かじ)が切られたと思います。

 しかし、資格や語学力を身につけることで全員が明るい転職ができたかというと、決してそうではありません。企業が人材に求めるのは資格や語学力だけではないんです。では、転職に成功した人は何を持っていたのでしょう。実は、人間性のよさ、やる気や明るさです。私は、「明るさ」が求められるというのは、バブル経済が崩壊する以前から何も変わっていないと思うし、この先、将来も変わらないと考えているんです。

 「明るさ」といっても、持って生まれたひょうきんさや楽天的な性格のことではありません。もちろん、性格改造の本を読んで身につくものでもない。明るさや人柄のよさを身につけるためには、本人の努力が最も必要だと思います。苦しい状況の中にありながらも、まあなんとかなるだろうと開き直りながら、それでも諦(あきら)めずに何かをやり遂げた瞬間に、人は本当の明るさを身につけていきます。一生懸命頑張って仕事をして、みんなで「よくやった!」と喜びを分かちあって、苦労をねぎらいあう。そうした経験を何回か積み重ねていくうちに、なんともいえない人柄のよさがにじみ出てくるでしょうし、その人なりの魅力が出てくるのだと思います。

 そういう人は転職するとき、「あなたは前の会社でどんなことをしてきましたか?」と聞かれても、ちゃんと答えられます。自慢話はしないけれど、小さな誇りを持っていて、自分がやってきたことを、ちょっとどきどきしながらとつとつと語ることができる。例えば「事故がないようにずっと機械を動かし続けてきた」「1円のミスもなく、きちんと帳簿をつけ続けた」。前の会社で何を考え、何を大事に思って、何をやってきたのか。語れることを持たない人は再就職が難しいと思いますね。転職しないにしても、語れる人生がある人は幸せじゃないですか。だから、「あなたは何をやってきたの?」と聞かれたときに答えられるよう、100字でもいいから語れる何かを考えておくといいでしょう。語れる何かがある人は、かっこいいですよ。

仕事と家庭の他に、
全身全霊を傾けられる
三つ目の居場所を持とう

 あなたは転職するときに、誰かに相談しますか?妻、夫、会社の上司、同僚……。悪くはないけれど、身近な人に相談してもあまりうまくいかないようです。なぜかというと、自分の世界でしか生きていない人は、外の世界が見えなくなってしまっています。身近な人たちも自分の世界の人には違いないのですから、そう変わった意見は期待できないでしょう。転職に成功している人は、自分とはまったく異なった環境のなかで生きている、たまにしか会わない友人・知人に相談していることが多いようです。めったに会わなくても、お互いに尊敬と信頼の気持ちを持ちながらつながっている人間関係。それをウィークタイズ(weak ties・弱い結びつき)と言うのですが、これからはこの人間関係を大切にしなければなりません。

 今は、インターネットで会社の情報を得ることができます。待遇面での情報、社屋の写真、業務内容。しかし、その会社でやりがいを持って働けるのか、仕事に誇りが持てるのだろうか、うまくなじめるのか。そんな大切なことは分かりません。だからこそ、その世界に近いところで仕事をしている知人・友人のアドバイスや意見が大事です。尊敬する人の感じ方や生き方から、将来の自分の姿をイメージしてみる。薄い関係だけれども信頼関係でつながった人が、ピンチのときに、きっと救ってくれるはずです。

 ではウィークタイズを作るには、どうすればいいのか。ある人は「年賀状の裏も表も印刷。そんな年賀状を何枚持っていたってなんの役にも立たない」と言います。1行でも2行でもいいから、自分の言葉でメッセージを書く。すると、相手からも手書きのメッセージ入りの年賀状が送られてくるようになる。そういう年賀状を100枚持っている人は、転職するにしても開業するにしても、強いですよ。年賀状に限らず、一度一緒に仕事をした人へのお礼をメールやハガキで出すという方法もあるでしょう。自分なりのウィークタイズの作り方を考えておく必要がありますね。

 また、「仕事と家庭の両立」とよく言いますが、2つのものを両立し続けるのは、とても大変。片方がコケると両方ともコケてしまいます。でも、3つあれば、1つが崩れても、残りの2つで支えられます。3つ目とは、全身全霊を傾けられるもの。本気で遊ぶってことです。地域活動でも、ボランティアでも、NPOでもいい、自分とは直接利害関係がない3つ目の居場所を作っておくことです。

 仕事も家庭も大事です。けれど人間には、もうひとつ大事な「遊び」があるんです。余裕がなくなって、のりしろがなくなってくるとダメになってしまいますからね。人柄をよくして、転職を成功させるためにも、遊びを持つことは大切だと、私は思います。(談)

げんだ・ゆうじ ●1964年生まれ。88年、東京大学経済学部卒業。92年、同大学院経済学研究科退学後、ハーバード大学、オックスフォード大学各客員研究員、学習院大学教授などを経て現職。主な著書は『仕事のなかの曖昧な不安』(中央公論新社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『リストラと転職のメカニズム』(共編、東洋経済新報社)、『成長と人材』(共編、勁草書房)、『ジョブ・クリエイション』(日本経済新聞社)、『ニート―フリーターでもなく失業者でもなく』(幻冬舎)など。